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相続手続き・遺言書作成の基礎知識と活用


 相続についてのお話は、各々の状況により多少異なり、また、一概に法律では解決しづらい感情的な要素が含まれることも少なくはありません。しかし、最低限相続についての知識があることで、その危険を回避できる可能性があるということも忘れてはいけないと思います。
 ここでは、相続・遺言という制度の一部分ではありますが、簡潔にご説明しますので参考としてください。
 

(1) 相続の概要

 相続は、必ず起こる問題であり、相続の問題が発生したとき、迅速な対応ができるように基本的な事項は理解しておくとよいと思います。
 以下、相続に関する基本的な事項を記載しましたので、参考にしてください。

相続とは
死亡した人、すなわち、被相続人が生前有していた財産に関する一切の権利義務を相続人となる者が当然に引き受けること。死亡と同時に当然に相続が開始し、相続人がその事実を知っていたか否かは関係ありません。
相続に関する条文 民法882条から1044条までに具体的に記載されています。

相続は、法定相続遺言相続に分かれます。

法定相続 文字通り、法律で定められた相続の範囲や相続分により遺産を分割することです。
遺言相続 これも文字通り、被相続人の遺言に従って遺産を分割することです。

 簡単に言いますと、亡くなった人が、遺言書で財産の処分方法を決めていればそれが優先し、定めていなかったら法定相続となるのです。
 ただし、遺言書はその有効性が問題となることもありますので、遺言を作成する際は、それが法的に有効な遺言書となるか否かの判断も必要となります。
 遺言書が無効であれば、法定相続に従います。

 相続人と相続分は、遺言で定めがなければ、法定相続分が定められています。
まず第一に、配偶者は、常に相続人となります。配偶者とは、夫からみた妻、妻からみた夫のことです。これと同順位で以下の者が相続人となります。

 第1順位 子    配偶者 2分の1   子   2分の1
 第2順位 直系尊属    配偶者 3分の2  直系尊属 3分の1
 第3順位 兄弟姉妹    配偶者 4分の3  兄弟姉妹 4分の1

 つまり、相続人となる者は、子がいればその子と配偶者、子がいなければ、配偶者と直系尊属、子も直系尊属もいなければ、配偶者と兄弟姉妹が相続人となるのです。

 配偶者は、当然1人(重婚はできない)ですが、子、直系尊属、兄弟姉妹は、複数人となるときは、持分をその人数分で割ることになります。
 たとえば、子が3人いれば2分の1×3で、6分の1が相続分となります。ただし、子の場合の嫡出子と非嫡出子、兄弟姉妹の場合の異母兄弟については、2分の1の割合となりますのでご注意ください。 

 相続人確定については、『相続人を調べよう』もご覧ください。


相続は、まず有効な遺言書が優先し、遺言書がない場合や遺言書内容と抵触しない範囲で法定相続となります。
具体的な事案により異なるケースや判断が必要な場合がありますので、ご相談ください。

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(2) 代襲相続とは

代襲相続 代襲相続とは、第1順位の相続人となる子が、相続の開始前にすでに死亡している場合や相続権を失った場合に、その子の子つまり、孫が代わって相続することです。
もしその孫もすでに 亡くなっている場合は、その孫の子である曾孫が代襲する(再代襲相続)ことになります。

 相続人が直系卑属の場合は、ずっと代襲しますが、直系尊属、兄弟姉妹の場合は、少し異なります。
 直系尊属の場合は、父母の双方がいなければ、祖父母が相続することになりますが、片方でも生存していれば、その者が相続人となり、祖父母は相続できません。直系尊属は、代襲相続ではなく、本来的な相続であるため、このようになります。

 また、兄弟姉妹の場合は、兄弟姉妹の子である甥や姪までは代襲しますが、そこまでで代襲は終了です。1回だけ代襲できるということです。

 なお、被相続人が死亡したときにその妻が懐胎していた場合は、その胎児に相続権があるので、相続人として第1順位になります。

 このように、法定相続は法律で定められているため、ケースにより異なりますが、法定相続がなされても、法定相続人同士で話し合い、特定の財産等を割り当てるなど、具体的に財産を分割することができます。これを遺産分割協議といいますが、スムーズに進まないケースも多々ありますので、ある程度の知識は用意しておいたほうがよいと思います。
 特に、2世帯住宅などで日ごろの世話をしていた場合など、容易に金銭価値として主張できないような相続人がいる場合は、長期化することも多いようです

協議内容の種類については『遺産分割協議の方法』をご覧ください。

原則として、被相続人が死亡してから3ヶ月経過してしまいますと、単純承認したことになり、相続放棄や限定承認ができなくなります。一般的には、単純承認となることがほとんどですが、被相続人が自営業の場合などでは、被相続人本人が連帯保証しているケースもありますので、多少疑問がある場合には早期に調べる事が大事だと思います。
具体的な事案により異なるケースや判断が必要な場合がありますので、ご相談ください。

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(3) 相続の承認・放棄

 相続人は、相続が開始されたとき、単純承認限定承認放棄のいずれかひとつを選択することができます。選択せずに一定期間を経過することにより、単純承認したものとみなされます

単純承認 相続人が、無条件で被相続人の権利義務を承継するという意思表示。
限定承認 相続人が全員で、相続財産を限度として相続による効果を承認するという意思表示。
相続の放棄 相続人が相続による効果を受けないという意思表示。

 民法では、自己のために相続開始があったことを知ったときから3ヶ月以内に単純、もしくは限定の承認または放棄をしなければならないと定めています。この期間は家庭裁判所で伸ばすことは可能です。
 要するに、単純承認を原則として、限定承認をするか、放棄をするかを選択できるということです。

 まず、相続財産には、
プラスの財産マイナスの財産があります。
 単純承認をするとこれらプラス・マイナス財産のすべてを相続することになり、マイナスの財産のほうが多くてもこれを承継することになります。

 そこで相続財産がわからないという人は
限定承認という方法があります。これは、上記期間内に相続人全員が家庭裁判所へ申述することになります。相続人全員が限定承認をしなければならないため、誰かひとりが単純承認をすると限定承認をすることができません。
 限定承認の申述がされるとプラスの財産・マイナスの財産を調べ、プラスの財産が残ればそれを承継し、マイナスの財産が残れば責任のない債務となって承継しないことになります。なんてよい制度なのだろうか、と思ってしまいますが、それだけに要件等の規定もあります。
 
 相続人全員で申述しなければならないことのほか、相続財産管理人の選任、相続債権者・受遺者に対する除斥の公告・催告等の手続きが必要で、期間も長期間にわたり、手間と費用もかかります。

 注意すべき点は、熟慮期間中に財産の処分等の行為をしてしまいますと単純承認したこととなり、限定承認はできなくなること、一度限定承認の申述が受理されると撤回ができなくなることです。

 最後に
相続の放棄ですが、これは相続をしないという意思表示です。
 これは単独でおこなう意思表示で、絶対単純なものであるため、期限や条件などを付すことはできません。この放棄により、その相続に関しては、
最初から相続人にならなかったものとみなされます

 このように相続問題が発生したときに備えて、ある程度の財産の把握は必要だとお分かりになると思います。
 特に
財産多く持っている人(うらやましい限りですが・・・。)や自営業をしている人はプラスの財産もあれば、マイナスの財産もあることが多いので、一度調べてみるのもよいでしょう。
 とりわけ、債務(借金)等のマイナス財産を調べるのは、容易ではないため、生前にある程度確認しておくことも大事です。

相続は、まず有効な遺言書が優先し、遺言書がない場合や遺言書内容と抵触しない範囲で法定相続となります。
具体的な事案により異なるケースや判断が必要な場合がありますので、ご相談ください。

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(4) 遺言

 民法では、先に述べたように、相続について詳細な規定がありますが、これは法定相続の場合であって、遺言相続の場合は、遺言書によることになります。

 被相続人の自由な意思を尊重することは当然のことであり、被相続人は、遺言をすることによって死後も遺言書の内容どおりに法律関係がおこなわれるのです。

 しかし、なんでも遺言でできるわけではなく、遺言によってできる事項を民法では定めていますので、これらの事項以外は、たとえ遺言書に記載してもその効果は生じません(遺訓としては問題ありません)。

遺言でのみすることができるもの 遺言でも生前行為でもすることができるもの
未成年後見人・未成年後見監督人の指定
認知
相続分の指定と指定の委託
推定相続人の廃除と廃除の取消
遺産分割の方法の指定と指定の委託 財産の処分(贈与・遺贈・寄付行為)
遺産分割の禁止
祖先の祭祀主催者の指定
共同相続人間の担保責任の指定 特別受益の持戻し免除
遺言執行者の指定と指定の委託 生命保険金受取人の指定
遺贈減殺方法の指定 信託の指定

 ちょっと難しい言葉がありますが、とにかく誰になにをあげるとか、あなたの相続分の割合はこれくらいですよ、などを決めたり、それらを決める人を指定したりすることができると理解してくだされば基本的な知識としてはよいでしょう。

遺言書は、相続人にとってトラブルのもとを少なくするための最大の予防でもあります。たとえば、先に述べた2世帯住宅のケースで、仮に不動産の持分を被相続人が持っていたとします。お世話になった相続人にその2世帯住宅については、自分の持分をすべて相続させる遺言書を作成し、他の財産については法定相続どおりでおこなうことで、2世帯住宅で暮らしている相続人は、その住宅を相続財産として遺産分割の対象にする必要がなくなるため、トラブルを回避できるのです。ただし、遺言書作成には、後述します遺留分に気をつけて作成する必要はあります。 
具体的な事案により異なるケースや判断が必要な場合がありますので、ご相談ください。

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 ここで、遺言執行者という言葉がでてきましたが、遺言執行者とは、遺言書の内容を実現させるために第三者の立場でその手続きをおこなう人です。遺言で定められていたり、利害関係人の請求により家庭裁判所が選任した場合に選任されます。

遺言の種類(普通方式)
自筆証書遺言 遺言者が遺言の全文、日付及び氏名を自署し押印する。
公正証書遺言 公証人が作成する遺言書で、公文書として保管される。証人2人以上の立会いが必要で、遺言者が口述した内容を公証人が遺言書として作成し、公証人・遺言者・証人が署名押印します。原本は、20年間または遺言者が100 歳に達するまでのどちらか長い年数、公証役場に保管されます。
秘密証書遺言 遺言の内容を誰にも知られたくない場合、遺言書は遺言者が作成し、封筒に入れ封印後、証人2人以上の立会いのもと公証役場で、そこに遺言書を提出した年月日、公証人・遺言者・証人が署名押印します。

 自筆証書は、自分ひとりだけで書ける遺言で、遺言の中では最も簡単に作成することができる反面、遺言の有効性の判断が足りず、無効となったり、死後発見されなかったり、隠匿される可能性もあります。

 遺言書の中でもっとも信頼性のあるのが
公正証書遺言です。紛失等した場合でも、原本は公証役場に保管してありますし、偽造・変造・滅失・隠匿・未発見のおそれがほとんどありません。

 また、相続が開始すると遺言書の存在確認として
家庭裁判所の検認を受ける必要がありますが、この公正証書遺言の場合、公証人が確認しているので検認は不要となります。

 
秘密証書遺言は、ちょうど自筆証書と公正証書の中間にあたるようなもので、内容は遺言者が作成し、これに封した封筒に公証人・証人・遺言者が署名押印します。
 遺言内容は、遺言者以外には知られませんが、遺言書としての有効無効を公正証書としたものではないのはもちろん、保管も遺言者本人が保管するため、滅失・隠匿・未発見のおそれがないわけではありません。

 専門家としておすすめするのは公正証書遺言です。やはり、原本が公証役場に保管され、公文書扱いとされる点では、信頼性が優れています。
 遺言書のメリットは多々ありますが、たとえば、先にお話しましたように、お世話になっている相続人に対して自身の相続発生時にトラブルにならないように予防するような側面があります。また、相続人以外の第三者への遺言(遺贈)も可能となります。
 とかく遺言書は、死後の財産の取り決めと思われがちですが、その分相続に関するトラブルも多々あります。
具体的な事案により異なるケースや判断が必要な場合がありますので、ご相談ください。

 当事務所では、遺言書作成のコンサルティングをおこなっています。推定相続人の確認から遺言書原案の作成、公正証書サポートまで、遺言者の意思にそった遺言書作りのサポートをします。また、相続発生後の手続きをおこなう遺言執行者も選任可能ですので、状況に応じた選択が可能です。まずは、ご相談ください。

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 もっと遺言のことを詳しく知りたい方、当事務所がサポートする公正証書遺言作成の手続きなど詳しくお知りになりたい方、又ご予算額に見合ったサポートを受けたい方は、無料にて資料をPDFファイルで送信しますので参考にしてください。

遺言書については、『【コラム】遺言書を作成しよう』でも説明しています。


(5) 遺留分

 遺留分とは、一定の範囲の相続人に保障された相続財産のうちの一定の割合で、被相続人の贈与や遺贈によって奪われることのないものです。
 これは、被相続人の財産によって生活してきた家族や相続人間の相続による公平性のため、財産の一部を残された者のために留保する必要があるからです。


 簡単に言ってしまいますと、前述した遺言書で相続人の一人にすべて相続させたとしても、他の相続人に遺留分という割合があるため、すべてを受遺者である相続人が相続することはできないということです。
 ただし、遺留分はその相続人が主張して初めて発生するものですので、主張されずに時効となったり、兄弟姉妹が相続人の場合などでは、遺留分の主張ができないので、すべて受遺者が相続できることもあるのです。

遺留分算定の基礎となる財産
@ 被相続人が相続開始の時に有した財産(プラスの財産)の価額 被相続人の一身専属権(たとえば、委任契約による委任者または受任者の地位など)及び祭祀財産を除いた一切の積極財産
A 生前贈与の価額 相続開始前の1年間にした贈与及び相続開始の1年前の贈与でも遺留分権利者に損害を与えることを当事者の双方が知って知ってした贈与。相続人以外への贈与でもよい。
B 債務の価額(マイナスの財産) 借金などの私法上の債務及び租税債務などの公法上の債務

 上記を基準として、@+A−Bの価額が遺留分算定の基礎となる財産の価額です。

 遺留分の権利を主張することができる者は、
相続人のうち兄弟姉妹を除いた相続人です。

遺留分の割合
相続人となる者が直系尊属(父・母など)のみの場合 遺産の3分の1
上記以外の相続人となる者のうち兄弟姉妹以外の場合 遺産の2分の1

 この割合が遺留分の割合ですので、遺留分算定の基礎となる財産に遺留分の割合を掛けたものが遺留分の額です。

遺留分算定の基礎となる財産 × 遺留分の割合 = 遺留分の額

 相続人が数人いる共同相続であれば、相続人全部の遺留分の率に、各々の相続人の法定相続分の割合を掛けたものがその相続人の遺留分の割合です。

 たとえば、相続人が妻と子2人である場合、妻が4分の2、子が各4分の1の法定相続分となります。そして遺留分の割合は、上の表から遺産の2分の1であることがわかるため、これに法定相続分を掛けることになります。そうすると、妻は8分の2、子は各8分の1となり、これが遺留分の割合となります。

さまざまなご事情から、どうしてもこの人にあげたい、どうしてもあげたくない、など被相続人の気持ちは大事です。できる限りその意思にそうように遺留分に注意して遺言書を作成する必要があります。
具体的な事案により異なるケースや判断が必要な場合がありますので、ご相談ください。

遺留分の侵害

被相続人の生前贈与(原則、相続開始前の1年間)や遺贈によって、遺留分権利者が受けた相続財産が遺留分に足りないことを遺留分の侵害といいます。

 これは先に述べた遺留分主張側からの立場です。いわゆる法定相続人でありながら、遺言書で相続が受けられなくなったり、遺留分よりも少なかったりした場合に主張することになります。

 遺留分の侵害があるときは、遺留分権利者及びその承継人は、自己の遺留分を保全するのに必要な範囲内で、遺贈及び贈与の減殺を請求することができます(遺留分減殺請求権)。
 つまり、まったく相続財産をもらってなければ、自分の遺留分価額全部を、また、もらっていたけど自分の遺留分価額に足りなければ、その足りない価額を、請求することができるということです。

 ただし、注意しなければならないことは、遺留分の減殺請求権は、
その意思を表示することによってはじめて生じる権利であるため、待っていても時効により消滅するだけですので、相手方にその意思を表示する必要があります。

 ちなみに、時効による消滅は、遺留分権利者が、相続開始及び減殺すべき贈与または遺贈のあったことを知ったときから1年間です。また、相続開始のときから10年を経過したときも消滅します。

 遺留分減殺請求は、その旨を通知しなければなりません。通知は特に決まりはないのですが、内容証明書で通知をすればその意思を表示したことが証拠として残り、後々のトラブルを回避することができます。

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遺留分減殺請求はその意思を表示して初めて発生する権利です。法律的には形成権といいますが、まずは意思を通知することが必要です。
そして、その意思の通知は、内容証明書で通知し、証拠を残しておくことが大事です。
具体的な事案により異なるケースや判断が必要な場合がありますので、ご相談ください。

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