(1) クーリングオフの期間を過ぎてしまったら
クーリングオフは、一方的に行使することができる点で消費者保護の最も強力な契約解消方法ですが、期間が比較的短いため、特にサービス提供などの特定継続的役務や内職商法などの業務提供誘引販売の場合、その効果があらわれるまでの期間がクーリングオフの期間では短く、期間内に気付きにくいものです。
クーリングオフ制度は特別な保護制度であり、その要件を満たせば、クーリングオフをして契約を解消した方が最も有効的ではあります。
しかし、クーリングオフの期間が過ぎてしまっても契約を取消したり又は解除することができないことはありません。
錯誤による無効、詐欺・強迫による契約の取消し、未成年者の取消し、公序良俗違反による無効、債務不履行による契約の解除によることもできます。
クーリングオフとの最大の違いは、クーリングオフでは消費者側から一方的に解除したいと通知すれば、法律上それでなかったことになりますが、クーリングオフができない場合には契約内容や民法等一般の規定によりますので、契約の解除、取消しや無効には、これらの規定に沿っておこなうことになります。
最近急激に増え続けている悪徳商法による被害者救済のために制定されたのが消費者契約法です。これは、民法の厳格な要件を多少緩和した要件で取消しを認めるため、消費者にとっては強い味方ではありますが、業者に対する罰則などの規定がないため業者側が素直に認めてくれなければ、紛争に発展する可能性もあるます。
しかし、これは消費者契約法に限らず、クーリングオフ期間が経過してしまえば詐欺・強迫などでも紛争に発展する可能性はありますので、深く考えるよりもこれ以上被害が進まないように対策を練ることが大切です。
最終的には裁判所による判決にゆだねられますが、消費者側に有利な判決が蓄積していくことでよりこの消費者契約法が活きてくると思います。そのために必要なことは、紛争に発展しないように解決できるようにすることが一番ですが、仮に発展したとしても証拠となるものを準備をしておくことも大切です。
(2) クーリングオフ以外の救済措置
クーリングオフの期間が経過してしまったり、クーリングオフの要件を満たしていない場合でも、救済方法はあります。
錯誤による無効 |
契約内容の重要な部分に錯誤(勘違い)があり、消費者に重大な過失(ちょっとした注意をすれば防げた場合)がない場合、契約が無効となります。 |
詐欺・強迫による取消し |
契約の相手方が、消費者をだましたり(詐欺)、脅かされて(強迫)契約した場合、契約を取り消すことができます。 |
公序良俗違反による無効 |
公の秩序に反する契約や善良なる風俗を乱す契約などはこれにあたりますが、法律による取締法規に違反した場合は、裁判所の判決が分かれてますのでこれにあたるとは限りません。 |
債務不履行による契約解除 |
契約をした以上、相手方には契約どおりにおこなってもらわなければなりません。これを怠れば、契約解除の対象になってきます。
相手方が契約の内容を遵守していなければ、消費者側には履行を請求(契約内容を実行してくれ、ということ)することができ、相手方が履行しないで代金の請求をしてきた場合、それを拒む(同時履行の抗弁)こともできます。場合によっては損害賠償の責任も請求することができます。 |
未成年者の取消権 |
未成年者は、親の同意のない契約は取消すことができます。何の負担もなく、ただでもらった場合や親から処分を許された財産、許された営業の範囲内での契約は、取り消すことができないとされています。また法律上結婚した者も成年者と扱われますので取消しはできません。 |
消費者契約法による取消し・無効 |
平成13年4月1日以降に締結した契約について適用されますが、事業者が契約を勧誘する際に不当な方法で消費者を誤認、困惑させて契約を締結させた場合に取消すことができ、契約条項が消費者に一方的な不利益を与え不当な場合に無効となります。
原則としてすべての消費者契約にして適用されます。事業者と消費者との情報と交渉力の格差を是正するため、消費者保護の見地から制定されたものです。 |
これらは、クーリングオフと異なり一方的に解消できるものではありません。
民法でいう契約は、人(法人も含みます)は対等平等であることから契約も人と人がする以上、対等のものと考えられます。その中で、この対等の原則に反する行為、すなわち、詐欺・強迫・公序良俗違反・債務不履行などや行為能力が不十分な者への配慮として未成年者や被後見人などの場合に契約解除や取消し、あるいは無効を認めているのです。
しかし、悪徳商法による被害が急増するとともに事業者と消費者との情報と交渉力の格差を是正する必要があり、消費者保護を目的とした消費者契約法が制定されました。
この法律も業者に対する罰則や行政処分などの制裁条項はないので十分とはいえませんが、最終的には裁判所の判断でこの消費者契約法が発揮してくると思います。そのためにも、これを証明できる証拠をきちんととっておき、被害を受けたら内容証明書などで解消の通知し、これによって業者側が心理的な圧力を受ければ、最小限の被害で、まずは食い止めることができますし、その後で返還の方法を考えればよいと思います。
(3) 消費者契約法
消費者契約法は、消費者と事業者との契約をいいます。消費者契約法にいう消費者とは、「個人」のことをいい、法人その他の団体や個人であっても事業として又は事業のために契約する場合は、消費者ではなく事業者と扱われます。
取消原因 |
具体例 |
不実の告知
(4条1項1号) |
重要事項について事実と異なることを説明され |
これによって誤認して |
契約 |
断定的判断の提供
(4条1項2号) |
絶対に儲かるなどと断定的に告げられて |
不利益事実の不告知
(4条2項) |
有利な事実のみ告げられ、不利益な事実を告げられないで |
不退去
(4条3項1号) |
退去を求めたが退去しないため |
これによって困惑して |
退去妨害
(4条3項2号) |
帰りたいといっているのに帰らせてもらえず |
無効原因 |
事業者の損害賠償責任を免除する条項
(8条) |
債務不履行の責任を |
全部免除する条項 |
一部免除する条項
(故意又は重過失の場合) |
不法行為の責任を |
全部免除する条項 |
一部免除する条項
(故意又は重過失の場合) |
目的物に隠れた瑕疵があった場合の責任(有償契約)を |
全部免除する条項 |
消費者が負担する損害賠償の予約や違約金を定める条項
(9条) |
解除に伴う損害賠償の予定額や違約金の定めが消費者に不当に多額である場合 |
契約解除について事業者に生ずる平均的な損害の額を超えるものは無効 |
支払期日に支払わない場合、期日までに支払うべき金額の14.6%を越える部分は無効 |
消費者の利益を一方的に害する条項
(10条) |
信義誠実の原則に反した消費者の不利になる条項などは、その条項が無効となり民法や商法が適用されます。10条は、8・9条ではカバーできない部分を定めたものでその範囲は最終的に裁判所の判断となるでしょう。 |
消費者契約法では、これらに該当すれば取消し・無効となりますが、事業者に対する罰則等の規定がないため、争いとなる可能性も否定できませんが、取消しは追認することができるときから(取消原因がなくなったときから)6ヶ月、契約締結のときから5年間のいずれか先に経過したときからですので、これらに該当した場合には早期に取消し・無効の意思を業者に伝えることが必要です。
この場合、内容証明で後々のためにその意思を表示したことを残しておくとよいでしょう。また、裁判になった場合の証明(立証責任)も民法等による場合よりも緩和はされてはいますが、消費者側にありますので、メモや相手方の資料などを保管しておくことも大切です。慎重な法的判断を要しますので専門家に相談することをお勧めします。
消費者保護を図るため、法律解釈や国の消費者保護政策などから、より消費者を保護する動きが活発になりつつあります。トラブルになったら、専門家や消費者保護センター等に相談し、最新の情報を入手して対策を練ることが大事です。